他人に移植しても拒絶反応が起きにくい特殊なiPS細胞を使って、重い目の病気の患者を治療する他家移植と呼ばれるタイプの世界初の手術を、理化学研究所などのチームが28日に実施したと発表しました。成功すれば、1人当たり1億円と言われるiPS細胞を使った治療のコストを、10分の1程度にできると見られていて、将来の再生医療の普及につながると期待されます。
世界初となるiPS細胞の他家移植の手術を行ったのは、神戸市にある理化学研究所の高橋政代プロジェクトリーダーと、神戸市立医療センター中央市民病院、それに、大阪大学と京都大学のチームです。
手術を受けたのは、加齢黄斑変性という重い目の病気の60代の男性で、これまでの治療では、症状の悪化が抑えられなくなっていました。
手術は、28日中央市民病院で行われ、京都大学の山中伸弥教授らが作った、拒絶反応が起きにくい特殊なiPS細胞から目の網膜の組織を作り出し、注射器を使って、男性の目に移植しました。手術は、1時間ほどで無事終了したということです。
今回使われたiPS細胞は、特殊な免疫のタイプを持つ人から京都大学が作り出し、凍結保存しているもので、拒絶反応を起こしにくいうえ、解凍して培養すれば、ほぼ無限に増やせます。
このため、同様の症状に苦しむ多くの患者に使う事が可能で、3年前の患者本人のiPS細胞を使った自家移植の際には、費用がおよそ1億円かかったのに比べ、10分の1程度にまで抑えられると期待されています。
今回の手術は、iPS細胞を使った他家移植の安全性や効果を確認する臨床研究の一部で、拒絶反応が起きにくい他人のiPS細胞を使った他家移植の実施は世界で初めてです。
チームは、患者5人を目標に同様の手術を行い、細胞のがん化や拒絶反応が起こらないかなどを慎重に確認することにしていて、成功すれば再生医療の普及につながると期待されています。