News Up 二ホンオオカミ “最後の日”
ニホンオオカミが最後に見つかったのは明治38年の1月23日。そう、1月23日はニホンオオカミ最後の日です。しかし今でも生存を伝える話が各地で出てきます。幻となったその姿をカメラに収めようという人、そしてその関係者を追ってみました。
8円50銭8円50銭
ニホンオオカミは、全長1メートル前後。本州から九州、四国の山間部に生息していました。しかし人間や家畜を襲う被害が増えて、駆除が推奨されたこともあり、姿を消してしまったと言われています。
捕獲されたオオカミが最後に確認されたのが明治38年の1月23日、奈良県の今の東吉野村です。このオオカミは地元の猟師から日本に来ていたロンドン動物学協会の調査隊員に売り渡されます。最後の二ホンオオカミになるとは思わずに売り渡されたであろう、この二ホンオオカミ、その値段は8円50銭でした。大英自然史博物館にその骨や毛皮があり、日本では見ることはできません。
オオカミはいる、きっとオオカミはいる、きっと
しかし、オオカミの存在を伝える話は今も日本各地で聞かれます。そうしたオオカミの姿をなんとかとらえようと、半世紀近く活動しているのが、埼玉県に住む八木博さん(67)です。
オオカミに関心を抱いたのは、ある経験からでした。新潟県の山小屋で働いていた19歳の時、深夜、荷物を運んでいると突然、オオカミのような遠ぼえを耳にしたのです。恐怖で身震いが止まらず翌日、乗るはずだったバスに乗り損ねました。ところがそのバスは、事故で崖に転落したことがわかったそうです。この体験に運命を感じ、ニホンオオカミの姿をなんとか突き止めたいと、山の中を巡り始めたのです。
秩父にオオカミ?秩父にオオカミ?
八木さんがオオカミに最も近づいたのではと言われるのは20年余り前の平成8年10月です。埼玉県の秩父の山中で見慣れない動物に出会い、夢中になってシャッターを押し続けたのです。その動物は森の中に静かに姿を消していきます。
この写真、オオカミに似ているのではないかと専門家を巻き込んだ議論が繰り広げられました。撮影した写真の動物をニホンオオカミの骨格とされる画像と重ね合わせると…。一致するようにもみえます。しかし、専門家の間では、「写真だけでは判別出来ない」とされました。写真ではなく捕らえないかぎり、結論は出そうにありません。
情報は各地から情報は各地から
この撮影の経験も後押しし、八木さんは70歳近くになってもほぼ毎週、オオカミの姿をとらえようと山に入っています。動物などが横切ると自動的にシャッターが切られるカメラを50台ほど取り付けて撮影を試みようとしています。
そんな八木さんのもとには、東北から九州まで、オオカミのような声を聞いたなどという情報が次々と寄せられています。最近では去年10月。長野県山ノ内町の岩菅山で、オオカミのような遠ぼえを2回聞いたという登山者からの情報がありました。奥秩父の山道を車で走っていた観光客がオオカミのような動物がガードレールの下にいたという目撃情報もありました。20年前に写真を公開したあと集まったオオカミの情報は100件以上にのぼります。
取り付けたカメラでこれまでに撮影した画像は5万点以上です。しかし・・・オオカミの存在が議論になる写真が撮影できたのは、20年前の1回だけ。それでも八木さんは山に入ります。半世紀近く、毎週のように。「いつか、きっと」。八木さんの思いです。
発見するかもしれない
一見、無鉄砲とも言われることがある八木さんの調査。専門家はどう考えていたのでしょうか。八木さんが撮影した写真を分析したこともある専門家を訪ねましたが、すでに亡くなっていて、代わりに親族が取材に応じてくれました。
専門家は国立科学博物館に勤めていた動物分類学者の今泉吉典さん。今泉さんの生前の言葉を教えてくれたのは息子の忠明さんです。忠明さんによると今泉さんは八木さんの行動を大変評価していたそうです。その一番の理由は「現場に何回も足を運んでいること」。誰かがとってきたモノを分析するより、「現場の調査が大事」という信念があったようです。
そして現場を何回も歩く八木さんが撮影した写真に、「ニホンオオカミの生き残りの可能性がある貴重な動物であることは間違いない」という言葉を残していました。そして「八木さんが奥秩父でオオカミを発見するかもしれない」とも話していたそうです。
追っているものは幻かもしれない。それでも八木さんの行動力には、心を打たれるものがありました。絶滅したと言われて100年余り。オオカミは時を隔ててなおロマンをかきたてます。